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艶枕【3月のライオン】島田総受 (後藤・宗谷・桐山×島田)

~隠れ宿~

「なあ、再来週の月曜から金曜まで空いているか?」

「ええ、夏休みなので。課題も終わらせましたし、特に予定は」

「だったら、付き合わないか?」

 イレギュラーな島田と二人の研究会も何度目だろう。

 パシンパシンと打つ駒の音だけが響く和室で話しかけられて、零は慌てて答えた。

 二階堂や重田がいると議論という名のやり合いが五月蠅い程なのに、二人だと庭の蝉の声が五月蠅い。

 窓を開け放って扇風機を回している和室は蒸し暑い。

 団扇で仰ぎながら、したたり落ちる汗を拭いつつ駒をさすのにも随分慣れた。

 流石に寝室にはクーラーをいれているらしいが、島田はクーラーの冷風が苦手らしい。

「付き合うってどこにですか?」

「群馬県の伊香保。まあ、温泉旅行?結局、お籠もりになるんだろうけど、少しは観光できるんじゃないか?」

「ええと、イベントかなんかですか?」

「いや、単純に誘われているんだけど、三人だと間が持たなくてさ。桐山がいたら少しは気が楽かなと」

「ああ、なるほど」

 二階堂と重田の論争に挟まれて、島田が困り果てる所は何度も見た。零も知らず火にガソリンを掛けていたりするのだけど、そこは気がつかない。

 ご一緒しますよと、気軽に返事をすると島田がどこかほっとしたような表情だったのが、なぜか気になった。

 高崎駅は新幹線が止まる駅なのだが、東京近郊の在来線より寂れた感じがするのは、以前天童の人間将棋に出向いた時を思い出させた。

 こっちだと言われて駅の改札を抜け、レンタカーで車を借りた。

 ここらあたりだとバスの本数が無くて、車を利用する。皆が車を使うから、ますますバスが減るのだと地方の交通事情を話しながら、島田は零を助手席に乗せて滑らかな運転でナビの指示通りに右折した。

「慣れているんですね」

「田舎じゃ運転出来ないと生活出来ないからな。まあ、トラックやバンの方が慣れているが」

 すぐに山道、田んぼ、田舎の住宅という景色が続く。

 そして、島田が連れていったのは旅館ではなく、トリックアートの美術館だった。

 普通の絵とは違い、直接触れたり写真が撮れるトリックアートは新鮮で、モモちゃんとか喜びそうだなと思いながら写真を面白がって撮ってみた。

 美術館の隣にあるレストランで遅めの食事をして、伊香保に向かう。

 伊香保につくと切り絵美術館とか、日本画を中心にした美術館にも寄った。

 伊香保の町じたいがこぢんまりしているので、すぐに周り終わってしまうが、寺社とは違ってひどく楽しかった。

 修学旅行にも、体験学習にも、学校行事はことごとく不参加だった零を気遣ってくれたのだろうかと思った。

 島田達も学校行事はほとんど不参加だったらしいのだが、妙なところで島田は零が普通の高校生の生活をすることを気にする。

 将棋以外に興味を持てとは言わないが、違う世界があることを知っておくのは悪くないと。ただ、零にすれば、昔から学校では虐められていて、他人とのコミュニケーションは難しくて、川本家を別にすれば、将棋で知り合った今の関係だけで十分なのだが。

 どこか煩わしかった二階堂を友人と思えるようになった。スミスや一砂、横溝の言葉が零に対して嫌味や皮肉ではなく、無理をしていると心配していたのだと知った。

 そして、A級がどういう場所か、すべてを賭けて将棋を指すというのがどういうことか、島田を見て知った。

 すべてを投げ出すように、捧げるように、一手を模索する。

 研究会で指すときとは違う、島田が自身の将棋に潜って指すそれは、零の意識を必要とせず。ただ無心に指すそれは、息つく間もない怒濤の波のように襲いかかってくる。

 流されまいと必死で、波が引いた時は何も残っていないのではないかと思うほどに疲れるが、そのおかげでB級の対局で敵わないと思うことは無くなった。

 別に相手を侮る訳ではないが、手が見えると思うことが増えた。力業で押し切ろうとしなくなったせいか、勝率も上がっている。

 本当に、自分は島田さんからの恩恵を受けてばかりだと、零は少しくたびれた年上の人の横顔を見つめた。

 車から降りて、石作りの階段を登る。両脇にはお土産の店と飲食。お菓子は帰りに買えばいいかと、ぶらりと島田と連れだって歩いた。

 5時過ぎに旅館に着いた。対局で地元の立派な旅館やホテルには見慣れてきたが、こちらも高級感漂う宿だった。

「いらっしゃいませ。お連れ様はもうお着きですよ」

「そうですか」

 フロントで宿帳に名前を書いていると、宿の人が島田と零の荷物を持ってくれた。

 ロビーを抜け、本館を渡った離れへと案内された。

 庭と露天風呂がついた数寄屋造りの離れに、一瞬零が呆ける。

 案内されるまま部屋に入ると、そこには見知った人がいた。

「どうして、あんたがここに!」

 零の台詞に、相手は煩わしそうに眉を跳ね上げた。

「そっちこそ、なんでここにいる」

「俺が連れてきた」

「どういうつもりだ、島田」

「俺は普通に温泉につかって、美味いもんを喰って過ごしたいんだよ」

「別に温泉はついているし、喰えばいいだろう」

「だから、俺一人で二人の相手はきついと言っただろう」

 そう言われて、奥にもう一人いるのに気がついた。

 存在感が希薄だと思ったけれど、一度目に入れば惹きつけずにはいられない。

 島田と同い年とは思えない、若々しい外見に柔らかな雰囲気。それでいて彼の指す将棋は容赦ない。

 現名人で五冠の宗谷冬司。

 そして、零とはいささか関わりのある後藤正宗九段。

 てっきり研究会の二階堂と重田が連れだと思っていたので、思いがけない同伴者に零は驚いた。

「僕たちが相手では嫌なの?島田」

「嫌だとは言っていない。ただ、少しはゆっくりさせてくれ。何度も言うが、俺一人で二人を相手にするのはきついんだ。たまの休み、ゆっくり過ごしたいと思っても罰はあたらないだろう?」

 どこか懇願するような響きに零は驚いた。そして不満そうに顔を顰める宗谷にも。

 見かけによらず大人げない面があることは知っているが、なにやら拗ねている風なのがおかしい。というか、拗ねた顔が三十男に見えない。

「せっかく来たんだ、観光だって行きたいじゃないか」

「行ってきたんだろう、そのガキと」

 だから遅くなったんだろうと言われて、島田が視線を逸らす。将棋を挟んでなら睨みあうことも出来るが、普段争いを好まない島田はあまり我を通すことをしない。

「行けるものなら行ってくればいい。僕は籠もるつもりだけど」

「とにかく、風呂に行ってくる」

「ここにあるだろう」

「初日ぐらい、大浴場を使わせてくれ」

 そう言って、零を促して、本館にある大浴場へと向かった。

「すまんな、桐山」

「いえ、僕は。宿代出してもらった身ですし。というか、本当に良いんですか?」

 あの離れ、一泊幾らなのかと思ったのだが。

「別に構わない。俺は風呂も食事も堪能したいんだ。いつ入って何を喰ったかわからんのは勘弁して欲しい」

 何となく、あの二人と同室なのは大変そうだなとは思った。

 屋内と露天の大浴場は、二種類の源泉で気持ちよかった。男湯と女湯を日替わりで入れ替えるらしい。

「明日は入れるかな」

「?……早朝に入りにくれば良いのでは?」

「そうだな、入りにきたいんだが」

 大きく溜息をつく島田の背中を桐山が流す。

 別に不健康という訳では無いのだが、どうにも身体の線が細いというか、薄い。

 髪も洗って再び湯船につかると、大きく伸びをしてみせる。

 後藤の存在は余計だが、対局で張り詰めた島田ではなく、どこか緊張感が緩んだ彼と一緒なのは嬉しいし、宗谷名人と一緒なのも嬉しい。

 自分の実力では指せるとは思わないが、横で見て記録をつけるぐらいは出来るだろうか。

 個人的に後藤は嫌いだが、棋士としての後藤は嫌いではない。単純に嫌っていられた頃に比べて、複雑な心境なのだが、それでもやはり義姉に対しての態度は許せないものがある。

 部屋に戻ると夕飯の用意がされていた。

 卓の上に運ばれた膳は、洋風懐石という感じだ。

 綺麗な八寸は白い皿に盛られ、キノコのポタージュ、トマトのジュレとエビのカクテルサラダに鮎の塩焼きと赤城牛の石焼きステーキなど、和洋が入り交じった華やかな料理。

 ただ、島田が食べきれないからと桐山に勧め、宗谷も食べきれないと後藤に皿を押しやる。

 後藤が仲居に明日は半分で良いと言い、半分は明日の昼に出してくれと。

「食事は廊下においてくれれば良い。邪魔はされたくない」

「晩はちゃんと声をかけて欲しい」

「おい、島田」

「3食ともじゃ区切りがなくなるだろう。それに温かい物は温かいうちに、冷たい物は冷たいうちに食べるのが料理人に対する礼儀だ」

 チッと舌打ちする後藤に対して、島田が夕飯だけでもと食い下がる。

 温泉まんじゅうを籠に一盛り。朝と昼の膳は廊下に。手をつけていなくても気にしなくていい。布団は片しに来なくてもいい。どうせ部屋に籠もると宗谷が言い添える。

 お言いつけの将棋盤をお持ちしましたと、宿の人が運び入れたのは、携帯版ではなく、脚付きの立派なものが三つ。

「別に携帯版でも良かったのに」と島田が言えば、宿の人間はとんでもないと首を振る。

 確かに、知らないならともかく、現名人を中心にした集まりと思えば宿側も携帯版は出せないだろう。かなり立派な宿なだけに。

 指しているうちに寝落ちすることもあるから、朝は起こさなくても良いし、布団も片付けに来なくていい、邪魔をされると機嫌が悪くなって面倒だから、本当にこの部屋は放っておいてくれていい。用があれば呼ぶからと島田はポチ袋を仲居に手渡した。

 遠慮する仲居に菓子でも買って皆で分けてくれと改めて渡す。

 さてと、仲居がお膳を片付けた後、卓の横に将棋盤を並べ、宗谷・後藤に対して島田・零で2対2の変則的な勝負を始める。

 あくまでも遊びなのだと言うが、零にすれば緊張で強ばる。

 後藤には負けたくない。絶対に負けたくない。同時に憧れている宗谷も前にいる。凄く睨まれている気がして、零は頭が混乱して仕方が無かった。

 夜中まで将棋を指し続け、その後は大人の時間だと追い出されかけたのを島田が引き留めてくれた。

 卓の上には日本酒、零にはウーロン茶のグラス。

 浴衣姿でお猪口に継がれた日本酒を飲んでいる三人は、確かに格好良かった。ひどく酒を飲む仕草が似合うのだ。

 ゆったりと飲む島田、水のように飲み干す後藤、宗谷も顔色が変わらず盃を重ねる。

 バー美咲で見かける先輩棋士達とは大分違う。特に会話らしい会話はない。それでもどこか相手を伺う気配がして、ゆっくりと、良い酒を味わっているのが分かる。

 ずっと緊張してたのと移動の疲れから、うつらうつらとする零に、ガキはさっさと寝ろと後藤に言われ、島田も苦笑交じりに寝なさいと促された。

 隣の寝室に布団を4つ敷きのべられていて、一番端の壁際の布団に潜り込んだ。

 まだ未成年で、一緒にお酒を飲めないことがひどく悔しかった。

 人の気配に空気が動いた気がして、零の意識が覚醒する。

 天井の照明はついていないが、行灯型のライトがオレンジ色の明かりを灯している部屋の内、押し殺した声が聞こえた。

 目をしばたかせて、枕元においていた眼鏡をかけると、視界に映った光景に目を見開いた。

「何やってんだよ、あんた!」

「見てわからないのか?」

 嘲る口調の後藤に、零が激高する。

「義姉さんだけじゃなく、島田さんまで!何考えてんだ!」

 掴みかかろうと布団を蹴り飛ばした零を後藤は鼻で笑った。

「どうして……あんた、奥さんがいるのに。義姉さんだって……」

「あれは父親にかまって欲しくて拗ねてる子供だろうが。あんなガキに手を出すか」

 後藤が島田の顎を掴み、その頬をベロリと舐める。

 そして、島田は身の置き所がないという風に顔を背ける。

「見るな……頼むから見ないでくれ……」

「ん?今まで尊敬される先輩でいたから、恥ずかしいと?お前のせいだろう?このガキを口実に逃げようとするからだろうが」

「まったく、島田は時々馬鹿になるよね」

 普段の涼やかな声とは違い、どこか暗い色のある宗谷の声に零の背中がぞくりとした。

 後藤だけではないのだと、ようやく気がついた。

「ほら、こいつにもよく見てもらえよ。普段済ました顔をしてるが、どんだけお前が男好きか」

 後藤が島田の両足を左右に大きく割り広げて、その秘処に後藤の猛った陽根が突き刺さっている様を見せつけるのに、島田が必死で身を捩った。

「やめてくれ!」

「暴れると怪我をするよ、島田」

 ほらと、宗谷の細い指が島田の陰茎を撫で、その先端からのぞいている淫具を弄るのに、島田が掠れた嬌声を零した。

「宗谷さん?」

 あなたまでが何をしているのかと、零は宗谷を見るのに、宗谷本人は薄い笑みを浮かべた。

「仕方ないんだよ。だって島田は淫乱だから。僕一人じゃ足りないっていうんだ」

「お前が後から割り込んできたんだろうが」

「だって、島田は僕が大好きだもの」

 そう歌うように言って、宗谷は零の見ている前で、島田に口付けた。

 抵抗する言葉を封じて、宗谷は島田の舌を吸い上げ、絡め取る。

「そろそろ、棋竜と棋匠のタイトルも返してもらう。そうすれば、島田は僕以外追いかけなくてすむでしょう?」 

 僕のことだけを考えて、僕だけを追いかければ良いと、甘い毒を孕んだ声で囁くのに、島田が首を竦めた。

「そうなれば、ますます島田と会う機会は減るな。島田が会いに行かないかぎりお前は会えない訳だ」

「会いにくるよ。そうだろう?島田」

 並み居る棋士を蹴倒して、化け物揃いのA級を制して、ラスボス魔王に等しい宗谷に会いに来いという。

 行灯を模したオレンジ色の照明に照らされて、人影が浮かび上がる。

 誰よりも尊敬していた先輩棋士が、全裸で右手と右足首、左手と左足首をそれぞれ紺色の帯で縛られていた。

 零に向かって大きく両足を割り広げられ、その足を抱える腕は、力強く揺るぎないように見えた。ニタリと島田の背後から笑う後藤の顔がのぞき、抱え上げた下肢を突き上げるのに、噛みしめた唇から押し殺した喘ぎが零れる。影を作る叢から見える性器の先端に、見慣れないモノがのぞいている。

 その性器をなぞる細い指。全体の色素が薄い印象があるせいか、年齢不詳の外見のせいか、肉付きの薄い四肢に白蛇が巻き付いているような錯覚を覚える。

「おいで、桐山」

 宗谷の誘う声にザワリとした何かが背中を駆け上る。

「来ないなら、布団被って寝たふりしていろ」

 後藤の馬鹿にしたような声に、カッと顔に朱色が走った。

 幾分足をもつれさせながら、零が三人の基に近づくと、零から顔を逸らして、唇を噛みしめ目を閉じている島田の姿。

 羞恥に全身を染めているのが見てとれるのに、後藤の手で大きく割広げられた下肢は、猛った後藤のペニスを深々と加えこんでいるアナルが見える。

 後藤のそれは嵩も太さも、成熟した大人の性器で、凶悪な程に生々しい。それを男である島田の体が受け入れていることに驚いた。

 そっと伸ばした指で、後藤を受け入れている縁をなぞると、島田の体が跳ねた。慌てて指を離すと、宗谷がクスクスと笑う。

「大丈夫、島田のココは健気で欲張りだから、触るだけでなく、入れてみたらいい」

「えっ?」

 こんなにきつそうなのにと、視線で問うのに、宗谷が笑って促す。

「や…やめてくれ…」

「島田さん?」

 掠れた声で止められ、零がオロオロとするのに、宗谷の指が島田の陰茎をゆっくりとなぞった。

「何、可愛い後輩の桐山に君が男好きの淫乱だって知られるのが恥ずかしい?だけど、桐山を連れてきたのは島田だろう?こうなると分かってて連れてきたんだろう?」

「違う!そんなつもりじゃ…」

「桐山を口実に、僕達を避けるつもりだったと?本当に君は馬鹿なんだから」

「俺達がこんなガキに遠慮する訳ないだろうが」 

「ほら、確かめてごらん桐山。島田は痛いことが苦手なくせに、虐められるのが大好きなんだよ」

 宗谷に促されて、零の中指が、熟れた縁をめくり、後藤の牡に沿わせる格好で肉壁を探っていく。

 入口はきつかったのに、肉環を抜けるとぬかるみのように柔らかで、絡みつくようにうごめいているのに、零は驚いた。指の背に怒張した後藤を、指の腹で島田の内壁を感じる。

「もっと奥までいれてごらん」

 言われるまま、指の付け根まで、深く沈めたとき、島田の下肢がビクンと大きく跳ねた。「えっ?」と困惑する零に、宗谷と後藤が低く笑う。

「ふっくらしている所があるだろう?そこが島田の大好きな所。島田は常識人ぶりたいから、嫌がるけどね。お尻の穴を弄られると感じるんだよ。感じすぎて泣くぐらい、そこを弄られるのが大好きなんだよ」

 宗谷に言われて指の腹で探ると、柔らかな肉壁にふっくらとした「しこり」のようなものがあった。零の指がそのしこりを擦ると、島田の腰がビクビクと面白いように跳ねた。

「や…やめてくれ…そこは…桐山ぁ頼むからぁ!ヒィッ!」

「気持ち…いいんですか?」

「違う!」

「でも、中がすごく締まって…絡んでくる」

 零に指摘されて、島田が全身を羞恥に染めた。 

「大丈夫だよ、島田。桐山は良い子だから、君がどれほどいやらしくて、淫乱でもあきれたりしないよ」

 甘い毒を含んだような声で囁かれて、島田が頬を引きつらせて囚われた下肢を揺する。

 本人は抵抗のつもりかもしれないが、零の指を含んだまま、腰をふりたくる様はひどくいやらしくて、零は知らず喉を鳴らしていた。

「奥を突いて欲しいならそう言え」

 一旦抜けてしまっていた怒張を、零の手と指に沿わせながら再び島田の後孔に沈めていく。

 濡れた粘膜を押し開く、ズチュという淫猥な音と仰け反る首筋に、零はひどく喉が渇いた。

「ほら」

 宗谷に立てと促され、しぶしぶという風に、島田の後孔から指を抜く。

「可愛い後輩に教えてやれ、でないと無知なガキは無茶ぶりするぞ?」

 後藤が緩やかなストロークで島田の細い腰を揺らすと宗谷の指が島田の顎を捉えて開かせる。

 後藤の手と腰に揺らされながら、目尻を朱に染めた島田が一度零を見上げると、諦めたように視線を伏せた。

 そして、島田は両手を結わえられた不自由な体制のまま、身を乗り出して零の浴衣の裾にその鼻先を突っ込むと、裾をかき分け、歯で下着のゴム紐を噛んで引き下ろした。

 一瞬、逃げ腰になった零だが、背中を押さえる宗谷の手がそれ以上逃げるのを許さず、信じられない気持ちで、ただ茫然と島田の貌を見下ろしていた。

 延ばされた舌先が、後藤に比べて未成熟な印象のある零の性器の先端を舐める。横銜えにして裏筋を舌で撫でおろし、付け根にある双珠を交互にしゃぶる。

 零の表情を窺うように上目遣いで視線を一度上げてから、唇を開いて唾液を溜めた口中に零の若い牡を含んでいく。

 頬を窄めて柔らかな内側でしごきながら、ジュルジュルと啜る音を立てて吸い、刺激に立ち上がる欲望に舌を絡める。

 島田を抱えて揺すっていた後藤の手は、細い両足を解放していたが、その足は閉じられることなく後藤の膝をまたぐように開かれたまま、淫猥な箇所をあらわにしていた。

 背後から延ばされた後藤の両手が、島田の胸板を撫でて乳首を撮む。紙縒りを作るように指先で捩じりながら、島田の耳朶に舌を這わせている。

 そして、宗谷は楽し気に島田の性器に刺さった淫具を弄る。マドラーのような形状をしたそれは、先端に潰れたボールのような物がついているが、滑らかな凹凸がある棒状で、宗谷の指がその棒を撮んで上下に出し入れするのに合わせて、島田の下肢がビクついた。

 初めてのフェラチオに意識がいっている零は、そんな後藤や宗谷の不埒な行為には気づかぬまま、羞恥に潤んだ瞳を揺らしながら、零の反応を窺うように時々見上げてくる島田の表情と技巧的な口淫に逆上せていた。

「あのっ…もうっ…」

 普段、零は性的なことに縁がない分、直截的な刺激には慣れていない。その分我慢もきかかなくて、このままではまずいと島田の頭を押さえるが、それは抵抗というより、先を促す仕草にも似ていた。

 その手を辿って一瞬島田が零の顔を見上げてから、恥じるように視線を落とすと、零をイかそうとするように一層頬を窄めて熱心にしゃぶりだした。

「んっ…ぐっ…んっ」

 島田がくぐもった声を漏らしながら、ジュルジュルと音を立てて啜り、零の陰茎に舌を沿わせ、上顎で擦り、喉奥で絞るものだから、急速に射精が募り零は慌てたが、押さえつけるわけでもない宗谷の手に逃げる腰を阻まれて身動きが取れず、競り上がるような情欲を白濁とともに島田の口にぶちまけた。

 零が詰めた息を吐きだすと、島田が零の顔を見上げて一度口を開く。

 その口中に零の精液があるのを見せてから、ゆっくりと嚥下し、再び口を開いて飲み込んだことを示す。

「ん、上手に飲めたね。若い桐山の精液は美味しかった?」

「宗谷…もう、勘弁してくれ…」

「駄目」

 楽し気に笑う宗谷に対して、島田は項を赤く染めて項垂れる。

 零にというより、宗谷にちゃんと精液を飲んだことを証立てしたかったのだと分かると、少しムッとした。

 少し距離をとったことで、ようやく零は島田の状況を理解できた。

 後藤に後孔を犯されたまま、両方の乳首を抓られながら首筋や耳朶をしゃぶられ、宗谷の手で尿道を淫具で塞がれてなお立ち上がったままの陰茎を弄ばれ、ビクビクと縛られたままの手足で身を捩っていた。

「うん?桐山もやってみる?」

「宗谷さん…」

「ゆっくりとだよ。傷つけたら大変だから。ゆっくり動かすんだ」

 銀色に輝く淫具を桐山に持たせ、こう動かすのだと教えるのに、最初は遠慮がちだった零が、島田を凝視しながら次第に大胆に動かし始める。

「桐山…もう…抜いてくれ…頼む…もうイキたい…」

 クルリと指先でひねり、深い場所に刺さると腰を揺する島田は、零を咎めるどころかもっとと言うように両足を開くから、零の好奇心と嗜虐心を煽る。

「島田は感じやすくて、いくら言っても我慢できずに出すからこのブジーで塞いであげたんだけど。尿道を弄られるのもすぐに気に入ってね。最初は綿棒より細いのでも痛がったのに、今じゃ物足りないって啼くんだよ」

 零の指に宗谷が手を添えると、淫具をもう少し深く沈める。

「ひぃい…」

 背中を仰け反らせて喘ぐ島田に、クスクスと笑いながら、『ココ』が島田の感じる場所だと零に教えるようにクリクリとブジーを動かす。

「穴を犯されるのが大好きなんて、本当に恥ずかしい身体だね、島田」

 耳朶を含んでいた後藤が、耳殻をなぞって耳の穴を舌で犯す。顔を背けようとする島田の羞恥と悦に染まった貌、しっとりと汗ばんだ肌が行灯の明かりに陰影を浮かび上がり、テラリとした艶を見せた。

 ゆっくりと、後藤が島田の身体を吊り上げる。

 後藤の大きすぎるペニスが抜かれたアナルが、すぐには閉じることが出来ず、緩んだ窄みからトロリとした粘液がしたたり落ちるのを、零はじっと凝視していた。

 宗谷の細い指が島田の髪を撫でる。

 ゆっくりと、銀色のブジーを宗谷が性器から抜き取ると、トロトロと先端から島田が感じている証がこぼれ落ちていく。

 視線だけで宗谷を見た島田が、どこか諦めたように項垂れる。

「できれば…できればでいいんだが…俺の……を………てくれ」

「それじゃこのガキに聞こえないだろうが。ちゃんと聞こえるように『お願い』してやれ」

 後藤が捕らえた島田の耳を犯したまま、言葉を促す。

「俺のケツまんこを桐山のちんぽで犯してくれ」

 ひどく卑猥で直接的な言葉でねだった島田は、耳が赤く羞恥に染まり、身の置き処がないというようにその身を縮めていたが、普段より掠れた声がひどく色香が滴って甘く響いた。

「っ…」

 言葉の意味を理解した瞬間、カアァと零の顔に血が上った。

「島田さんがそんな言葉を使ったら駄目です!」

「えっ?」

 気になるのはそこなのか?と島田が思わず顔を上げる。

「そら、来いよ」

 不自由な身体を組んだ膝上に抱え、二本の指で島田の後孔を左右に広げて見せた後藤が嗤う。

 本来、何かを受け入れる器官ではないはずなのに、縁を捲られ綻んだそこが、内壁をのぞかせていると、零を誘っているように見えて、思わず唾を飲み込んだ。

 島田の口から出た言葉が誰の好みか、言われなくても透けて見えるのが余計に零を駆り立てた。

 言われなくてもと、零が島田に腕を伸ばし、むしゃぶりつくように口付けた。舌を入れると独特の味が広がり、先ほど島田が零の精液を飲んでくれたことを実感する。

 島田の口腔を拭うように舌を伸ばして嘗め回し、何も着けないまま衝動で島田の後孔を探って自身の怒張を宛がい、一気に突き入れた。

 島田のそこは熱く濡れていて、鹿児島の砂のように底や異物を感じさせることなく、柔らかくて、重く熱くまとわりついてきた。

 ただ、気持ちよくて、闇雲に腰を動かす零に対して、くぐもった喘ぎを漏らした島田が仰け反るのに、零はその無防備な首筋を舐める。

「これだから童貞は。そんなんじゃ、こいつが満足できないだろうが」

 島田の背中から零に向かってのしかかるように倒しながら促すので、零よりは縦に長いが肉付きの薄い身体がもたれてくるのを零は両腕で受け止める。

 後藤は手を伸ばすと、零の牡茎を喰んでいる島田の後孔に指をかけたので、背後の男の意図を知った島田が慌てて止めようとするが、その手足は括られたままで身体は零の腕に囚われていた。

「存分に喰え」

 ニタリと肉食獣めいた獰猛な笑みを浮かべた後藤のそれは、太さだけでなく血管が浮いていて見た目も凶悪な物だったが、円環をこじ開けるようにして突き入れる。

「ひぃっ…ああぁ…」

 押し入れられる怒張に目を見開いた島田が、声を殺すことができず嬌声をあげた。

 嵩のある部分が縁を抜けると、あとは柔らかな抵抗を楽しむように後藤が腰を進めてくる。

「無理…ご…とうさ…」

 苦し気な声を漏らす島田の腰を強靭な腕が掴み、より一層深く抉るのに、細い肢体が悦楽にくねった。

「このクソガキに見せてやれよ。普段枯れて見えるお前が、本当はどれだけ男好きの淫乱か」

「やめ…」

「いつもみたいに奥まで突いてくれってねだれよ。『もっと擦って、桐山の精液奥にかけて』って」

「やだぁ…」

 首を振り立てた島田が、後藤の言葉に反応して二本の怒張を銜えこんだ肉壁がギュウッと窄まる。

「うっ…」

 一瞬、もっていかれそうになった零が息を詰める。

 自身のそれに添う熱塊を邪魔だと思うのに、隙間も許さないとばかりにうねって締め付けてくる島田の内壁に快楽を引き出される。

 妙に対抗意識が働いて、後藤と零は互いに動きを合わせることもなく、島田の奥津城を打ち壊す勢いで好きに突き上げると、島田はあられもない嬌声をあげながら、細い身体が跳ね駒のように跳ねる。

「仲間外れはずるいな。僕も仲間にいれてよ」

 拗ねたような口調で宗谷が島田の髪を掴むと、痛がる顔で島田が仰け反る。

 そして不自由な姿勢で身を捩り、島田はためらう素振りも見せずに宗谷の陰茎を口に含み、音を立ててしゃぶり出す。

 普段、俗世離れして、性欲など感じさせない宗谷だが、その性器は漲り、島田の口だけでなく喉奥まで犯す。

 嘔吐きそうになりながら、上顎と喉奥を宗谷に犯され、溶けたアナルには二人のペニスがその存在を主張するように突き上げてくる。

 腸壁を嵩のある先端から雁でゴリゴリと擦りながら、最奥をこじ開けよう突いてくる後藤と、慣れない分後藤に引き擦られるようにして浅い所から腹側にある前立腺を擦り立てる零の若いペニスに島田はただ喜悦に啼くしか出来なくなった。、

 自分は男なのに、男に抱かれて受け入れる側へと躾けられた身体が、三人からの精液を注がれて悦ぶのを自覚させられて、島田はトロリと蜜で濡れたような瞳を瞬かせた。

 いつの間にか、島田の手足を縛っていた帯は解けていたが、逃げるどころか抵抗することなく男達を受け入れていた。

 膝立ちになった島田に覆い被さるように背後から零が、柔らかく熔けて肉壷になったアナルに萎えないペニスを突き立てていた。

 すでに熱に浮かされたように頭が沸騰していて、零は島田を逃がすまいと掴んで離さない。

 男に抱かれ慣れているとわかる島田の痴態は、後藤達と関係を持ったのがかなりの数に及ぶと零に教えてくれ、端々に二人の痕跡が覗くのが無性に腹立たしかった。

「さっさとそいつの精液を搾り取ってやれ。でないと、俺達のが銜え込めないぞ?」

「ほら、喘いでないで。お口がお留守だよ?」

 島田の両手が、後藤と宗谷の性器をそれぞれ掴み、交互に口淫で二人を宥めるように淫猥な音を立てている。零が果てたら、次は自分達の番だと言うように見下ろされ、島田もより深く犯されるために二人の怒張を育てているように見えて、零は島田の肩口に噛みついた。

 こうして抱いているのに、自分以外に意識を向けられるのは、どうにも腹立たしかった。

 そんな零の心境など、この二人には見透かされているのだろうが、それが余計に癇に障る。

「島田さん、零さずにちゃんと僕のもこのお尻で飲んでくださいね?」

「飲む……飲むから……もう出してくれ……」

「早くそいつをイかせろよ。いつまで俺達を待たせるんだ?島田」

「本当に、ちょっと妬けるな」

 行灯の形をしていても、電気で灯るそれは揺らぐはずの無い光なのに、陰影のついた背中はなまめかしく、突かれるたびに縁から精液を零す島田の後孔は、もっと奥へと零の性器に絡みつき、ぬめった光が滴り落ちる。

 そして、すでに塞ぐ淫具はないというのに、島田のペニスは萎えることも射精することもなく、開いた穴からトロトロと悦楽の雫を溢し続けている。

 闇が濃くなった気がして、零は島田の項に吸い付きながら、より深くまで島田を知りたいと自分の陰茎をねじ込み、仰け反る島田の内壁に引き絞られて情欲を注いだ。

 零が陰茎を抜くと島田は崩れ落ち、しどけなく両足を開いた後穴からはコポリと白濁の液が溢れるのに、零は顔を顰めた。

「島田さん、溢したら駄目だって言ったのに」

「ごめ……もう一度飲ませて……今度は…溢さない…から……」

 息も絶え絶えに島田が答えて、貪婪な孔を零に見せるように腰を上げると、後藤が舌打ちをした。

「次は俺達だと言っただろうが」

「そんなに桐山の精液は美味しいの?」

 閨の陰が濃くなる。

 色欲の闇に染まった宗谷と後藤が笑うのを見て、零もこの人は渡さないと唇を吊り上げて笑っていた。

  

~迷い橋~

 しとしとと雨垂れの音が聞こえる。枕元の時計から朝の9時を過ぎていると分かるけれど、雨のせいでカーテンを開けても薄暗い部屋。

 目が覚めてから、隣の布団に横たわっている島田の寝姿をじっと零は見ていた。

 疲れた顔で横になっている姿は、対局前後で何度も見た。心配で心配で、人前で笑っている姿さえ無理をしているようで、見ているだけでキリキリとこちらの胃が痛む気がした。

 今も崩れた前髪が額にかかり、横たわる顔は疲労が滲んでいるのだが、どこか婀娜めいてみえる。

 ああ、これが色疲れというのかと、布団からのぞく喉や鎖骨のあたりの紅い鬱血の跡を見て、零が顔を赤らめた。

 性的な興味が全くないとは言わないが、学校でも友人の少ない零は、そういう話題に触れる機会がなかった。

 肉付きはけっして良いとは言えない、薄い肢体なのに、昨夜はひどく艶めかしくて、零達のペニスに犯される程に、きつく締め付けていた島田のアナルは熱くぬかるんで、どこまでも受け入れる淫らな肉壷へと変わっていくのに煽られた。

 零の身体を両足で挟み込み、奥に出してくれとその両腕で背中を掻き抱かれたら、零に抗うすべなどなくて、これで良いのか、ここを擦れば悦いのかと島田の後孔を自身のペニスで抉るように突き上げた。

 耳元で奥に出してくれと、甘く掠れた声で言われて、島田の薄い唇に噛みつくようにして舌を吸った。そんな零のことを後藤が笑っていたようだが、気にならない程に島田に夢中だった。

 初日だから、このぐらいで許してあげると、宗谷が島田を解放した時点で、2時を過ぎていて、島田の身体は自身の吐精だけでなく、後藤達から注がれた精液やら何やらに塗れて、酷い有様だった。

 後藤が脱げてグシャグシャになっていた島田の浴衣で簡単に身体を拭った後、畳の汚れを吹いて、備え付けのユニットバスに投げると、力の入らない痩躯を抱えて庭に面した露天風呂へと運び出した。

 外から見えないように植木を配した、庭を眺めることができる露天風呂の石張りの洗い場に下すとぐったりとした島田の頭から湯を掛ける。

「ちょ、後藤さん」

 手を振る島田にかまわず、桶に湯を汲んで後藤自身も体を洗うために被った。

 皆がお湯で身体の汚れを洗い流すと、宗谷が笑顔で島田を捉える。

「ほら、島田」

「…宗…谷……」

「お腹壊すと大変でしょ?」

 許してくれという視線で見上げる島田に、後藤が今更だと嗤った。

 そして、零達の見ている前で、島田が肩幅ほどに足を開いて膝立ちになると、宗谷の腰にしがみつく。

 後藤の指が島田の後孔を開くと、トロトロと腹の奥に納めていた三人の精液が零れ、内股を伝い落ちていった。

「はあ」と上ずるように吐き出す息がひどく甘い。

 後藤の指で広げられた肉輪が震える度に、トプリトプリと中から白濁の液が溢れてくる。

「随分と腹に溜め込んでいるな。やっぱりお前も欲しかったんだろうが」

「桐山は若い分、島田が欲しがる度に、何度も中で出してくれたから、よかったね」

 これ以上は勘弁してくれというように、島田が宗谷の腰に頬を擦りつけるが、後藤の指が沈められ、奥を開かれたのかまたポタポタと淫液が石床に落ちるのを、零は視線を逸らさず凝視していた。

 柔らかさも、豊満な胸もない肢体だというのに、一晩で何度も受け入れたせいで、縁をひくつかせながら三人分の精液を零す後孔や、背中から腰、臀部にかけるラインがひどくなまめかしいのだ。

 庭に灯された灯篭の明かりが、濡れた肌にひどく淫猥な影をつくっていた。

 将棋を挟めばいくらでも大人げない減らず口を叩く島田が、二人に命じられれば従順に足を開く。そのことも零を驚かせた。

 あの痴態を思い出すだけで、体が高ぶりそうだと、頬が火照る。

 顔を顰めた島田の目が開く。しばらくぼんやりとしていたが、零の姿を見て一瞬訝しげに眉をひそめた後、昨夜の痴態を思い出したのか真っ赤になり、そして血の気が引いた貌で零に背中を向けた。

「すっ、すまない。本当に変なことに巻き込んで。軽蔑されて当然だと思っている。ただ、桐山の才能をのばしてやりたいと思ったのは本当で、邪な気持ちはなかったんだ。だから…いや勉強会も無理に来なくて良いから。あとは、対局だけは俺にもどうにもならな…」

「駄目でしたか?下手だった?そりゃ後藤さんや宗谷さんに経験値で負けてるけど。でも、教えてくれたらちゃんと覚えるから!」

「桐山、何を言って」

「ちゃんと勉強します。体格はすぐにはどうにもできないけど、身長だってまだ伸びると思うし。島田さんを抱えられるぐらいにはなります。道具の使い方も宗谷さんに習うし」

「いや、ちょっと待て!」

 何やら不穏な零の言葉に島田が慌てたように向き直った。

 零の方は島田に背中を向けられたのが、拒絶されたように感じてしまってパニクっていた。昨日、加減ができず、犯り過ぎた自覚は零にも多少あった。

「お前、好きな女の子がいただろう!婚約者はどうした!」

「ああ、ひなちゃんのことは好きですよ。家族にならないといざという時に何もできないので。金銭的援助がしたくても、他人の僕から受け取ってくれるような人達ではありませんし。だから、てっとり早く結婚して家族になったら川本家の人達を守れると思って」

「…そういう意味か……」

 恋人の恋愛感情をすっとばして、守りたい家族として認識してしまったのか。

「島田さんのことも好きです。尊敬もしています。でも、先輩でA級棋士だし、男同士だし、どうにかなるとは思ってなかったというか」

「…すまない」

 尊敬されていたのは知っていた。素直で頑固で不器用なこの後輩を可愛いと思っていたし、宗谷に似た視点と感性は恐ろしくも眩かった。

 それなのに、せっかくの関係を台無しにしてしまったと悔いる島田に零の言葉が続く。

「でも、僕も島田さんにあんな風に触れて良いんだとわかって」

「えっ?」

「だって、昨日っていうか、今朝?島田さん僕に言ってくれたから」

『島田、桐山の精液は美味しかった?』

『…いしかった……』

『それじゃ、また飲ませて欲しいってお願いしないとね』

『零…溢さずにちゃんと飲むから、零の精液俺に飲ませて』

 思い出した島田は手で口元を押さえ、貌を真っ赤に染めた。

 言った。確かに。他にもいろいろと。意識がだいぶ飛んでいて、深く考えることもせず、宗谷に促されていつも口にしている台詞をなぞった。

 島田も最初の頃は羞恥心が勝り抵抗していたのだが、言わないと執拗に責められるから、二人が言えという言葉はなぞるようになっていた。

 実際、あの最中はどんな卑猥な言葉もあまり抵抗なく口にできる。翌朝理性が戻ってきたときダメージが大きいが。

 そして、そのダメージでジタバタしている島田の様子を、あの二人は楽しんでいる節がある。

「いやいや、待て桐山。ちょっとショッキングなことが重なって、おかしくなってる」

 正気に戻れと島田が零の顔を覗き込んだ。

「いやその、俺が偉そうに言える立場ではないんだが…そもそも、お前は女の子の方が好きだろう?」

「嫌いとまでは言いませんが、川本家の人達をのぞいて、女の人は苦手です」

「えっ?」

「自分は大切にされて当然な顔をされるとムカつきますし、言葉が通じないことが多いです。相手が一方的に話すだけで、会話が成立しません。それに女の人皆がそうだとは言いませんが、計算高いところとか、粘着質なところは正直怖いです」

「ああ」

 島田は零の返事に思わず額に手を当てた。そういえば、この子は齢9歳で両親を失ったのだ。幼い頃に大人の汚いところを見ていたのだろう。

 幸田も悪い人間ではないが、幸田家の子供たちと確執があったのは薄々島田も察している。家族を失った零だから、自分の居場所を探していたから特に家族に対する思い入れが強いのだと、島田は理解する。

 零の指が、島田の鎖骨に、正確に言えばそこに残っている歯型に触れた。ビクリと肩を震わせた島田に、零が逡巡するような表情を見せた。

 そして、言葉を選びながら島田に語りかけた。

「宗谷さんは…宗谷さんは仕方ないと思います。でも、後藤は、あいつは奥さんがいて…それだけじゃなくて、義姉とも…どうしてですか?あいつは駄目です」

 島田の機嫌は損ねたくない。それでも納得がいかないと、許せないと見つめてくるのに、島田は苦笑を浮かべる。

「幸田さんのお嬢さんとは関係をもってないと言っていた。後藤さんはそういう嘘は言わないから、そこは信じて良いと思う。後藤さんに奥さんがいるのは知っているよ。俺が検査に行った病院が、彼の奥さんの入院している病院でね。頼んでいたのに部屋の蛍光灯を変えていない。意識がないから放っておくのかと、すごい剣幕で看護師に怒鳴っていた。……何回か、後藤さんのマンションに行ったことがある。俺の古屋と違って、おしゃれなデザイナーズマンションで、キッチンもIHで綺麗なものだった。ただ、壁一面に棋譜が張ってあった。まるで結界でも張ってるのかというように、何かの呪符か?みたいなほどに、隙間無く」

「それは……」

「桐山。あの人も、いろいろ抱えている。もう十分世話をしたという人もいる。どうして一緒に暮らしていて兆候に気付かなかったのか、と責めた人もいる。こんな時ぐらい、対局は毎日あるわけじゃないのだから、奥さんを連れて帰って世話をすべきだと言った人も。金の話なら、管につないで生かしている状態は『治療』ではないから、長期入院を病院は嫌がる。個室で一月30万以上の差額ベッド代を払っているから、どうにか置いてもらっている状態だ。治療方法が分かっていれば、それに向かって手段を考えることもできる。だけど、その方法が分からない。痩せているけど、寝てるだけに見えるから、目を覚ますんじゃないかと思う。反応があれば声が聞こえているんじゃないかと思う。もう、ここまでで良いとはどうしたって言えない。金を稼ぐためには、勝たなくてはいけなくて、勝つためには奥さんの側に付きっきりいる訳にはいかない。後藤さんは強い。でも、揺らぐ時がある。俺はそれを弱さだと責める気にはなれない」

「島田さん」

「すまないな。俺も狡いオトナなんだよ」

 自嘲の滲んだ笑みが、桐山の言葉を摘み取った。家族は大事にして欲しい、幸せでいて欲しいというのが、零の願望だと分かっていた。それでも、誰かを泣かせて良いとは思えない。

「宗谷はなぁ……」

 上を向いて、島田の顔が泣き笑いに似た表情になった。

「好きとか嫌いとか関係ないというか。憧れと、嫉妬と、慕わしさが入り交じって、自分でもよくわからん。ただ、宗谷に欲しいと言われると逆らえないんだよ。自分でも情けないというか、優柔不断だとは思うんだが……」

「もう10時だ。いい加減起きろ」

 タンッと乾いた音をたてて襖が引かれ、後藤が声をかける。

 やれやれという風に溜息を一つついて、島田はくるりと視線を巡らせてから、布団から起き上がると、裸体をさらしたままスタスタと寝室を出ていった。

 慌てて零も起き上がる。しわくちゃの浴衣を引っかけ、適当に帯を結び、隣の居間へと移動すると、シャワーの音がかすかに聞こえるので、島田は部屋の浴室に移動したようだった。朝の空間で見ると、まるで皮膚病と勘違いしそうな程、島田の肌には紅い鬱血の痕があり、あちこちに噛み痕もあった。

 確かに、あれでは人目が多い大浴場には入れないだろうなと、昨日の島田が口にした不満が分かる。

 卓の上には朝餉が並んでいた。

 味噌汁やご飯は冷めてしまったらしく、湯気も消えている。

 渋々、後藤の向かいの席に座る。本当は嫌だが、宗谷の前だと島田よりも上座になってしまうので仕方が無かった。

「本当に義姉さんとは何もないんですか?」

「だから、あのストーカー女はさっさと引き取れと言っている」

「だったら、あんたが引導渡せよ」

「来るなとは何度も言っている。そもそもあいつが俺に付きまとうのは、あいつの知り合いで父親より上級が俺しかいないからだ。香子は俺に愛されたいんじゃない。父親にお前は自慢の娘だと言ってもらえなきゃ、あいつの寂しさは埋まらない。あいつが、父親の愛情を信じることができないなら、何を言っても無駄だ」

「面倒なら放り出せば良いのに」

 お茶を啜りながら、宗谷が混ぜ返すと、後藤が顔を顰めた。

「……完全に切ったら、幸田さんへの当てつけで碌でもない男にひっかりそうでな。だから早いところ回収しろと言ってる」

「妙な所で優しいよね、後藤さんは」

「島田のお人好しと一緒にするな。単に後味が悪いだけだ」

 島田を馬鹿にした棋士達に腹を立てた後藤と、義姉を泣かせた後藤。どちらも同じ人間で、好きにはなれないのに。

「……奥さんいるくせに」

 ぼそりと零が呟くと、後藤は肩眉を上げた。

「また偉そうに説教する気か?だが、島田は納得してるぞ」

「だけど!」

「あれとは、美砂子とは見合いで知り合った。別に一目惚れとかではなくて、こんなものかと二、三度会って、結婚を申し込んだ。結婚しても俺の生活は変わらなくて、タイトル戦で徳島から帰ってきたら、床に美砂子が倒れていた」

「それは……」

「すぐに救急車を呼んだが、脳梗塞でかなり時間がたっていた。それから生かされている状態だ。あいつが入院して、随分と身勝手な俺に尽くしてくれていたことに気がついた。多分、たくさんの言葉も聞き流していた」

 兆候はあった。食事の支度が出来てなくてごめんなさいと言われ、別に店屋物で良いと返した。洗濯物が放り出されたままなのを知っていたのに、クリーニングから引き取ってきた背広とシャツのタグを外して着替え、家を出ていた。

 部屋の隅に残る埃。

 部屋に花を飾り、きっちりと家事をしていた彼女が、あちこち疎かになった理由を問わなかった。

 あの日突然倒れたのではない。かなり前から体調が悪かったのだと、察することは出来たはずなのに、何も尋ねなかった。

「後悔してる?」

「いや。ただ、詫びたいとは思っている。こんな人でなしと結婚して、あいつが幸せだったのか悩む所だ。正直、今じゃ見舞いも惰性か義務感のような気もしている。対局以外に煩わされたくないと思うことだってある。それでも、あいつに死んで欲しいと思ったことはねぇよ」

 かさつく肌に化粧水と乳液を塗りながら、目覚めて欲しいと、口にするのが詰る言葉でも聞きたいと、ただ祈っている。

「幸田のお嬢さんは慰めにはならない?」

「あいつは踏み込んで欲しくない時もズカズカ入ってくる。その上、欲しいのは『父親の愛情』だ。愛して欲しい、自分を見て欲しい、特別だと言って欲しい、求めるばっかりのガキは面倒くさい」

「残念」

 薄く笑う宗谷に後藤は顔を顰めた。

「お前こそ、どうしてあの枯れた男に執着するかね。確かにA級で5年。タイトル戦にも出るようになったが、隅さんや土橋に比べれば物足りないだろうに」

「隅さんは思いっきりやれるから楽しいよ。土橋君も、宝探ししてる気分になる。でも島田は……あれとの対局は長い恋文を読んでる気分になる」

「恋文?」

「そう、会えない間、どれだけ僕のことを思っていたか、考えていたか、会いたいと願っていたか、切々と訴えられている気分になるんだよ」

「宗谷、それは単なる妄想だ」

「島田が僕に会うために、痛む胃を擦りながら倒すべき相手なのは後藤さんでしょ」

 所詮、障害物は黙ってろと笑う宗谷に、後藤が射殺すような視線を向ける。

「なんだ、先に食べていてくれて良かったのに」

 シャワーを浴びた島田が備え付けだったバスローブを羽織り、髪をタオルで拭いながら声をかける。

「今更だろう。別に大した時間じゃない」

 さっさと座れと後藤に促されて、島田が零の隣、宗谷の向いの席に座った。

 卓の上には茗荷を添えた焼き鮭、青菜のお浸し、卵焼き、里芋を人参の煮物、納豆、豆腐、焼きのり、お漬物、冷めてしまったご飯となめこの味噌汁。正しく旅館の朝食が並んでいる。

 いただきますと手を合わせて、四人で食べ始める。

 宗谷が無言で島田に納豆の小鉢を押し出し、島田が醤油注しを後藤に渡す。

 この三人でこんな風に朝食を食べるのに慣れているんだと、零は思った。

「シーツと浴衣の替え、もってきてもらわないと」

 溜息をつきながら、島田が卵焼きを口に入れる。

「酒を零したとでも言えば良いだろう」

「毎回、酒を零すのか?酒乱だと噂されたらどうしてくれる」

「だったら、京都で良いのに」

「あれはあれでいたたまれないんだよ」

「でも、口は固いよ?」

「だから、余計にいたたまれない」

 がっくりと島田が肩を落とすのに、後藤が今更だろうと返す。

 キョトキョトと視線で話し手を追う零に気づいて、島田が苦笑を浮かべた。

「島原にある宗谷の馴染みの定宿だよ。サービスも設備も申し分ないんだが…目立たない場所にあって、一見宿に見えない建物で。朱塗りの格子とか、視線を伏せ気味な対応とかが、全部心得ていますと言われているようで、どうにも」

「実際、心得ているだろう。宗谷の名前で予約して、部屋にこもったまま出ないんだから」

「この前なんか、紅色の布団が3枚、並べて敷かれずに、重ねて敷かれていて顔から火がでるかと思った」

「ああ、宗谷が怒ったあれか」

 視線だけで意味を問いかける零に後藤が薄く笑った。

「島原は元々遊郭だ。ただし、島原遊女のトップの太夫は貴族同格の位を持つ。その太夫の閨は布団が10枚重ねられていたらしくてな。3枚重ねの布団に宗谷が「どうせ重ねるなら10枚重ねたらどうや。僕の連れを格下扱いされるのは気分がようないなぁ」と笑顔のまま京都弁でな」

 普段、宗谷が京都弁で話すことはない。それだけに、ゆったりとした口調の京都弁が、あれほど怖いと初めて知った。

「どうやら宗谷のファンらしくて。島原から見れば吉原も格下。島原の太夫が10枚なら、俺は3枚程度の格だろうということらしいんだが。俺は三人だから三枚だと思っただけなのに、遠まわしに宗谷には釣り合ってないという意味らしい」

「知らないと気づかない、意地の悪い嫌味だ」

「でも、部屋に香を炊かれて、塗りの煙草盆と懐紙を置かれていたら、ラブホのフロントより気まずい」

「お前が気にしすぎだ。そうとわかっているから、遠慮してくれる。草津じゃ大変だったろうが」

 草津はイベントで出向いたことがあったせいで、宗谷の顔と名前を旅館の関係者に知られていた。宿の人間に変に気をまわされて、何かと様子を見に来られるので、ひどく落ち着かなくて、もう嫌だと島田が半泣きになった経緯がある。

「だから今回、伊香保なんですか」

「ああ、まだこっちのほうがマシかと思ってな」

 奥さんのいる後藤との関係をいうなら、島田と後藤は不倫なのだろう。宗谷と後藤の二人と関係しているのは二股なのだろう。だが、この三人には、その言葉からイメージされるほの暗さがない。あれほど淫靡な夜を過ごしたというのに、夜が明ければひどく穏やかな空気がある。

「正直、不本意だが…俺も宗谷もしばらく忙しい。こいつがフラフラしないように、お前が見張ってろ」

「人を尻軽みたいに言わんでください。第一、俺なんかに興味を持つような物好きそうそういるわけが…」

「ほう、接待で一服盛られた間抜けはどこの誰だ」

「あれで、ただ助けてくれたのなら素直に感謝できたのに」

「誘ったのはお前だろうが。俺はちゃんと確認したぞ」

「ええ、そうでしたね」

 島田が後藤から視線を逸らして、なめこの味噌汁を啜る。

「島田は流されやすいからね」

 お前が言うなという目で、後藤と島田が宗谷を見る。

「スポンサー相手だと、島田は変に遠慮してきっぱり断らないから、向こうは押せばいけるんじゃないかと誤解するんだよ」

「会長がスポンサー集めに苦労しているのを知ってるからな。あまり立場を悪くしたくないんだよ」

「スポンサー集めなら桐山が頑張ってくれるよ。そうだよね?」

 いきなり宗谷に話を振られて、零は慌てるが「できるだけ頑張ります」と答えた。

 やはり、後藤の存在も、この男の義姉や島田に対する態度も納得はいかないけれど、島田の相手に自分を数に加える宗谷の感覚もわからないけれど、ここで自分だけが弾かれるのは嫌だった。

「ひと眠りさせてもらうわ」

 一応、遅い朝食を平らげて、島田がそそくさと席を立つ。

 このままここにいると、ひどく気まずいことになりそうな気がしたからだ。

 背中に三人の視線を感じながら、タンと音をたてて襖を閉めた。

 バスローブのまま寝るのもどうかと思うが、裸で寝るのも気になり、かと言って汚すのはもっと困りそうなので、枕上にバスローブを置いて布団に横になった。

 シャワーを浴びた時、噛まれたところがピリピリと痛んだのに思わず赤面した。汚れた浴衣やシーツをざっと洗うのに、どうして朝っぱらからこんなことをしているんだと思いもした。

 老いることを忘れたような、化け物じみた宗谷はともかく、見た目も枯れたいい年をしたおっさん相手、すぐに飽きると思っていた関係はなんだかんだで続いている。その上、今度は桐山だ。

 18歳は超えたといっても未成年。幼さの残る外見もあって、罪悪感が半端ない。

 確かに、後藤とそういう関係になったのは、島田が接待の席で一服盛られて、意識が朦朧としていたところを後藤に助けられたのが切っ掛けだった。

 島田が誘ったせいだというのだが、それを後藤が受け入れた理由がわからない。玄人の女性に藤本とは違う意味で絶大な人気を持つ後藤なら、別にこんな鶏がらみたいな身体を抱かなくてもよかろうにと思ってしまう。

 多少の気まずさはあったが、無かったことにしようというのが、暗黙の了解だと思っていた。それなのに…

 二度目は後藤のマンションだった。東京での対局の後、珍しく足元がふらつくまで飲んでいた後藤を自宅まで送った。

 オートロック式の玄関に、暖色系のライトで照らされた洗練されたエントランス。築浅のデザイナーズマンションで、凄いなと素直な感想しか出てこなかった。

 鍵を開けて入ればシューズボックスには色あせた花籠が置きっぱなしだった。

 キッチンは綺麗なIHのシステムキッチンだが、うっすらと埃が積もっている。

 食器乾燥機は空っぽで、ゴミ箱からコンビニの袋とプラスチックの容器がのぞいていた。

 まだ綺麗な調理家電も電子レンジとお湯を沸かすぐらいしか使っていないのだろうと見て取れる。

 幾分荒んだ食堂は、奥さんが長い不在の一人暮らしを雄弁に語っていた。

 そして、モダンで綺麗な内装とは相いれない、目に飛び込んでくる壁に貼られた棋譜。

 隙間なく埋めるように貼られたそれは、まるでこの部屋を守るための護符か、呪符のようにも見えた。

 島田の勝手な思いだとはわかっていても、まるでそれが奥さんの命を繋ぐ手段であるかのように、弱さや不安、焦燥が外へ溢れださない様に内へ閉じ込めるために。

 あの傲慢な男が、縋るように島田を抱きすくめる時がある。

 島田はその腕を振り払えなかった。

 そして、二度目、島田が後藤を受け入れてから、この関係が続いている。頻繁という程ではないが、それでも数えるのをやめる程度には身体を重ねてきた。

 不思議なことに、奥さんに対して申し訳ないと思ったことはない。立ち位置が違うせいだろうか、後藤の愛情を求めていないし、自分のこれも愛情とは違う気がする。

 ヤルことをヤッているのだから性欲ではあるのだろうが、『情を交わす』というのが、一番しっくりくる。

 人間いつも強く自分を保てる訳ではないことを、年を重ねた島田は知っている。名人になるためには倒さなければならない、倒したい棋士ではあっても、後藤の不調は喜べない。崩れ落ちていく後藤など見たくない。

 眠ったままの妻を想って、他の女は抱けない後藤は、多分桐山が思っているような幸田の娘には手を出していない。

 女なら駄目で男なら良いのかという突っ込みは横に置き、妊娠も結婚も島田と後藤の間には生まれない。

 こんな関係は傍から見れば、不毛だろうとは思うのだが、お互いに一番大事なものは将棋で、それ以外はどうでもいいと思っていて、それがブレないからこそ続いている気もする。

 互いに言葉にしたことはないが、そこはやはり、もう無茶はできないいい年をした男の狡さなのだろう。

 タンと乾いた音を立てて、襖が開かれる気配に目を開けると、宗谷が立っていた。

 むかつく程に、外見は昔と変わっていない。

 そして、その立ち姿を白い鳥に例えたが、それも変わらない。

 マイペースと言えば聞こえは良いが、そもそも他人に関心がない。いっそ清々しい程に、過去に対局した相手でさえ棋譜は覚えていてもその顔を覚えていない。

 聞こえないほうが集中できて良いというのも、強がりなどではなく本音だろう。どこまでも孤独で清涼な将棋の世界で生きている。

 そう思っていたから、宗谷から欲しがられた時、頭が真っ白になって言葉を失った。

 別に彼を人外扱いするつもりはないが、それでもそういう生々しさとは縁遠い雰囲気がある。

 宗谷は本当に他人には冷淡で、一方的に懸想されると島田以上に嫌悪の表情で逃げるのだが。

 腕を掴まれても、苦笑いでやんわりと外そうとする島田と違い、顔を顰めて触れてきた手を叩き落す。

 それなのに、島田を抱くときの宗谷は執拗で、白い蛇が四肢を絡めとるように淫靡で、島田は目を逸らすことを許されず、自分の中にこれほどの堕淫があるのだと思い知らされる。

 二人に抱きつぶされる度に思うのは、彼等自身が持て余している激情の捌け口だろうということ。宗谷の言ではないが、セックスはさほど気にならない。男の島田にとって抱かれることは羞恥以上のものはなく、二人に抱かれても汚されたとか、愛されたとか思わない。

 多分、宗谷、後藤、島田もどこか欠けていて、どこか歪なのだ。

 そして、桐山も自身では埋めきれない虚がある。どうやら、自分はそういう相手ばかり惹かれるらしい。

 他人がいう程には島田は自身を優しいとは思わない。

 結構、自分は薄情だと思うのだが。

 所詮、棋士なんて生き物は『人でなし』だと、桐山も気が付けば、あんな風に後藤に噛みつかなくなるだろうか。

 つらつらと考えていた島田の頬に少しひんやりとした掌が触れたので、島田は横たわったまま、静かに目を閉じて薄く唇を開いた。

 

 雨がやまない。静かにしとしとと降り続く午後。

 カーテンを引いた寝室で、淫靡な濡れた音がわずかに空気を揺らす。

「いつも思うんだが、どんな面でそれ買うんだ?」

「どんなって、普通に誂えてもらってるけど?」

「特注なのか?それ」

「そうだね。カタログを参考にはするけど、定石通りもつまらないし」

「宗谷ぁ……もう……頼むから……」

「駄目、ほらもう一度だよ」

 クスクスと笑った宗谷が、島田のアナルに淫具を押し込むと、這っている姿勢を支えていた腕が崩れ、腰だけを浮かせた格好になるが、それでも両足の膝を開いて、宗谷達に淫猥な後孔を見せている。

 銀線を芯にして、周囲を絹の組紐で覆い、水晶の玉を数珠つなぎに連ねたそれは、アナルパールの形態なのだろうけど、質感がかなり違う。

 大きさが不揃いの水晶の玉は、表面が滑らかなものや、ざらりとしたもの、角をとった多角形の物が朱色の紐で連ねられていて、一見するとそれとはわかりにくい。

 その玉を、宗谷達が見ている前で、島田が一つ一つひり出していく。窄まったアナルがひくりと口を開け、ローションにまみれた水晶玉を落としていく様は、零の視覚を捕らえて離さない。

「ちょっと間があいたからね。島田のお尻がまた処女にもどっているから、ちゃんと慣らさないと怪我させたら嫌だし」 

「『処女』ねぇ、随分とスケベな処女孔だな、島田」

 半分まで顔を出していた、一番大きな水晶玉を後藤が内へと押し込み、グリグリと中で指を動かすのに、島田が掠れた喘ぎをもらした。

「桐山には後でここの洗い方を教えてあげる」

「洗い方ですか?」

「そう、島田は女じゃないから、生でやろうと思ったらいろいろ準備がいるんだよ」

 するりと宗谷が肉付きの薄い臀部を撫でると、島田が「やめてくれ」と顔色を変えて宗谷に縋った。

「頼む、やめてくれ宗谷。自分でするから!」

「桐山にしてもらうのは嫌?」

「嫌だ!」

 流石に先輩の面子などというつもりはないが、あれを桐山にされたら羞恥どころではない。

「桐山、島田に会いに行く前に連絡を入れたら、島田が抱かれる準備をして待っててくれるそうだよ」

「あ……」

 宗谷の台詞に、島田が愕然とした表情になる。

「自分でするんだよね?ここ、綺麗に洗って、ローションを入れて、指で慣らして、桐山にいれてくれって足を開くんだよね?」

「宗谷……」

「本当に島田は淫乱なんだから。目を離すのが心配になるよ」

「もう、女なんか抱けないだろ。それとも、お願いするか?尻孔にバイブかディルドを突っ込んで動かしてくれって。言われた女はドン引きだろうな」

 後藤が垂れている朱紐をクイッと引っ張り、ツルリと三つほどの水晶玉を島田の後孔から引き出すと、一際高い声で島田が啼いた。

「まったくスケベな孔だなぁ、島田。そんなにココに銜え込むのは気持ちいいか?」

 プチュンとたっぷり注がれたローションが音をたて、熟れた内壁をのぞかせながら磨りガラスのようなザラリとした水晶玉を産み落とすと、島田が背中を仰け反らせ、続けて三つプチュンプチュンと水晶玉を後孔を開いて押し出した。

「島田さん、凄くいやらしいです」

 どこかうっとりとした口調で桐山が言えば、島田は言葉もなくかぶりを振った。

 赤く尖った乳首は、重りのような銀色のドロップ型をつけたクリップで挟まれている。

 触れられていない島田の陰茎は、萎えることなくトロトロと雫を溢して快感を得ていることを教えてくれている。

「ああ……もう……勘弁してくれ……」

「島田?」

 許しを請う島田の声音が、甘く掠れたものになった。プチュンとまた水晶玉を産み落として濡れた声で喘ぐと、背後の宗谷達に視線を投げてよこした。

「……飲ませてくれよ……宗谷達の精液……」

「うん、飲ませてあげるよ」

 浴衣の下は下着を穿いていない宗谷が、自身の牡根を島田に見せつけるように浴衣の巣裾を割った。

「俺達が欲しけりゃさっさとこれを出せ」

 意地悪くそう言いながら、後藤の指が水晶玉のアナルパールを銜え込んだ後孔に指を入れて水晶玉で島田の前立腺を押すものだから、ビクビクと島田が腰を揺らした。

「島田さん、大好きです」

 あの怖ず怖ずとした零は影もなく、島田の頬に添えた手で促すと、開かせた唇に舌を差し入れて絡め取り吸い上げる。

「生意気だね、桐山」

「僕、学習能力は高い方なので」

「せいぜい教えてもらえばいいさ」

「ここで覚えたことは、東京に戻ってもちゃんと復習しますよ」

 チュッと音を立てて島田の唇を吸う零は、すっかり雄の顔をしていて、捕食される側の島田は悦楽に溶けた貌で、諦めのような吐息を溢した。

 駄目だと頭では分かっているのに。若い桐山はこの空気に当てられているだけで、諭すべきだと頭では理解しているのに。結局、自分は艶淫に染まった闇に堕ちていく。

 重量感のある水晶玉のアナルパールを全部出して、ヒクつく後孔を見せつけながら、眼前にある怒張に舌を伸ばす。

 触れてくる手は、過たず島田の性感帯を刺激するものだから、知らず身体が跳ねるのに、銀色のドロップが揺れてキリキリと乳首が痛むが、その痛みすら悦楽に変わる。

 与えられる刺激すべてが快感に変わるように仕込まれた身体に絶望しながら、島田の意識は白い闇に溶け、犯されて悦ぶ淫らな身体を、獲物を前にして舌舐めずりするような三人によって暴かれていった。

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