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水急流不月(みずきゅうにして つきをながさず)(織田信長×三日月宗近)映画 刀剣乱舞

 目の前に居る青年に対して、どうにもちぐはぐな印象をもってしまう。

 狩衣の衣装を着ているが、頭に冠や烏帽子がなくて、頭頂があらわだ。

 腰に佩いた剣も、お飾りや形だけというものではない。

 それに、漁師が獲物を確実に仕留めたことを確認してから毛皮だけ所望するような、日和った公家にしては腕が立ちすぎる。

 元々、藍染めによる青色は、天皇の官位12 階6 色のうち第2位とされた位色で、上位の貴族階級の者達が藍染めの絹を着ていたのだが、この青年の着ている狩衣の青は、安っぽい薄い青色ではなく、何度も染めたとわかる深い青。

 絹の艶だけではなく、仕立ててから同色の絹糸で紗綾形の刺繍を施したそれは、たいそう手間がかかっている高価な品だとわかる。

 どう考えても、日々の暮らしに困窮する貧乏公家に用意できるような衣装ではなく、自称で公家を名乗る似非貴族にしては所作や佇まいに品がある。

 信長が知る京の公家らしからぬ、というのが印象だ。

 本能寺で光秀の手勢に襲われた時、自刃しようとした信長を救出するのではなく、邪魔をさせぬように異形の者達は追い払うと言った。

 あの時点では、この男は信長を助けるつもりは無かったはずだ。

 元々、親族に裏切られ、部下に背かれてきた信長だ。

 神に誓った和睦の誓詞すら、たやすく破られる戦乱の世にあって、己以外に信じる者などない。

 だからこそ、無名を信じたというよりは、利害が一致したから奴らは自分の味方についたと思ったのだが、光秀を討とうとした信長を無名は止めた。その上、襲ってきた。

 だから、信長は混乱したのだ。

 なぜ、こやつは儂の邪魔をする?と。

 無名の攻撃からかばったのが、形(なり)だけは公家のような男。

 ただ、その太刀を扱う腕は、扱い慣れているというよりは、斬り合いに慣れている。

 信長を背に庇い、太刀を振るう間、手練れだった無名の切っ先が信長に一寸たりとも届くとは思えない程に。

 その際立つ剣技には、一瞬であっても見惚れた。

 力業一辺倒ではなく、相手の剣を捌く所作は、翻る袖すらまるで舞をみているかのように華やかで流麗だった。

 信長の信用を得て、懐に入ろうとしているのかと思えば、その態度は礼を尽くしはしても卑屈とはほど遠い。

 そして、他国の間諜を疑うには、この男は目立ちすぎた。

 信長の味方とは言わない。ただ、安土城までお連れすると言う。彼にそう命じた者がいるということか。

 ならば、誰かに仕えているのだろう。

 御所の者か?だがすでに将軍家は京より追い出した。

 ならば、朝廷の者か?信長の増長を押さえながら、恩を売ろうというあたりか。

 武士と言うには典雅、公家というには尚武な佇まい。

 美形揃いといわれる織田家は、美しい顔立ちの者が多い。妹のお市はもとより、正妻である濃姫も劣らぬ美形だ。

 だが、意思の強さを感じさせる彼女たちの美と、この者の美は違う。

 ただ、ただ美しい。咲き誇る山桜や、名物の茶器を前にした時のように、寺社に鎮座する月光菩薩像のように、存在するだけで目を惹かれる美しさ。

 やんわりと微笑むその顔は、感情がまるで見えない。

 信長に対して、敵意があるのか否かすら読めない美しい微笑。

「このような所では水しか差し上げられません」と、差し出された清水。

 言葉使いこそ丁寧だが、水を差し出す時も、跪いて差し出すことはしなかった。

 周囲を警戒していたのもあるのだろうが、信長の前で膝を折ることをしない。どこまでも目線が同じ立ち位置だ。

 別に毒を疑った訳でもないが、なぜか黄泉の食事を思わせた。この男が差し出す物を食せば、この世から外れてしまうのではないかと。

 まぁ、どこからか野鳥を狩ってきて、首を落として血抜きをしながら羽を毟り、バキバキと両手で解体する大雑把さを目の当たりにすれば、肩の力が抜けたが。

 行軍食として携帯していたらしい干し飯を内臓を取り出した鶏肉に詰めて焼くと、腰の刀で切り分けて葉の上に乗せ、木の枝を削った箸を添えて信長に差し出した。

 信長の好みからすれば、味は薄い。それでも空腹には十分なごちそうだ。

 それに、干し飯の量はもともと多くなかったのだろう。信長に差し出した分しかないらしく、骨の多い鳥肉の部位を自分の分として取り分けているのが目に入った。

 誰かの従僕であることは間違いないのだろう。

 夜通し馬で駆け、腹がくちくなれば眠気がくる。

 この身元がしれぬ男を信用した訳ではない。

 それでも、寝込みを突然襲うようなこともすまいと、信長は柱にもたれかかってうつらうつらとする。三日月が側に控えていることで、張り詰めていた警戒が緩んだ。

 この者ならば、明智の残党や異形の者どもが現れても、自分に近づけることすらすまいと。

 ふと気がつけば昼前だった。

 荒れた寺の外、静かに佇む男は警護に立っていたらしい。

 信長同様、この男も昨夜から一睡もしていないであろうに。

「残り物で申し訳ありませぬが」 

 そう言って差し出されたのは先ほどの残りだ。

 冷めた鳥飯もどきは食べられない味ではない、というあたりだが、贅沢を言っても始まらぬと信長は平らげる。

 元々、信長はあまり食にこだわりがないので、腹が膨れればそれで良い。

 また、どこからともなく馬を二頭連れてくると信長に手綱を渡し、先導する形で安土城に向かう。

 本当に信長を安土まで送り届けるつもりらしい。

 

 

 

 すでに光秀側に占拠されているかと思っていた安土城だったが、信長は無事に入城することが出来た。

 すぐに手足を洗って髭を剃る。

 蘭丸を呼ぼうとして、いないのだと思い出した。人がいないのではなく、信用のおける身分のある者がいないのだ。

「わたくしめでよろしければ」

 薄い微笑を浮かべた三日月が、信長の着替えの用意をする。

 何故知っているのかと訝しげに思うが、この手の物はだいたい置き場所が決まっておりますのでと微笑んだ。

 厨に夕餉の支度を指示し、下男に入浴の準備をさせる。

 湯殿ではなく、蒸し風呂だが、湯帷子をまとって脂を溶かし、垢をする。

 元々、貴人の客人などに振る舞う接待用の風呂でもあるが、信長は三日月にも使えと言った。

 ここまで自分を連れてきてくれた礼だと。

 風呂から上がると、信長が庭の見える茶室へと三日月を案内する。

 涼みながら茶を振る舞うと、今度は天守閣へと連れて行く。

 自慢の城を三日月に見せびらかすような信長の態度に、三日月が淡い微笑を浮かべる。

 戦の為の城ではなく、この国を統治する為の城だと、信長は天守閣から見える下界を指して言う。

 山がまるごと城、ともいえる豪華絢爛な安土城は、当時の技術をつぎ込んで建てられ、内装では当代を代表する狩野永徳の障壁画が飾られている。

 宣教師を通して、後のローマ法王にまでその壮麗さが届く名城は、まさに信長が己の権威を示す為に建てた城だ。

 夕餉の膳を運んできたのも三日月だった。

 人がいない訳ではないのだが、蘭丸を筆頭に近侍である者達が全員本能寺で死んでいるので、今の安土に信長の近侍として側に寄れる者がいないのだ。

 元々、間者や暗殺を警戒して、信長の私室に入れる者は極限られている。

 特に今は、名前や顔がおぼろげな身分の低い者を側に置きたくなかった。

 ならば会って数日の三日月を側に置くのは、警戒して当たり前なのだが、三日月の顔と所作は信長の審美眼にかなう。

 卑屈さや信長の顔色を伺う様子はなく、信長を害そうとする素振りも見せない。

 少なくとも、今は信長を守る気らしいと分かる。

 手練れなことも分かっており、護衛としては盾ぐらいにはなるだろう。

 信長が言わなければ気が付かないあたり、あまり気働きが出来る方ではないのだろうが、鷹揚な態度は不快感をもたらさない。

 膳を片した後、三日月が銚子と杯を持ってくる。

 通常であれば護衛の者が囲む奥の寝所で休むが、今襲撃を受ければ逃げるのが困難と、庭に面した部屋に布団を敷かせた。

 元々、暗殺を恐れていくつかの部屋を使用する信長なので、食事の間に寝所の準備をさせたが、月夜に照らされた夜の庭の風情を眺めながら、三日月に注がせた濁り酒を飲む。

「数日の内に猿が安土に到着しよう。さすれば、儂が健在なことを触れ回らせ、西に改めて兵をやる。まったく、あの金柑のせいでいらぬ日数をくうた。まぁ、儂に翻意をもつ者のあぶり出しぐらいには役だったか」

 さやと風が吹いて、信長の髪が僅かに揺れる。

 覇王とも魔王と呼ばれる男の横顔を、三日月が見やった。

 今まで、天下とは京都を中心とした近畿のことをさした。それを、全国統一というビジョンを初めて示した男。

 貧しいから隣国に攻め入り、米を奪う。それが戦国の戦だった。最強と言われた武田とて、甲斐の民を喰わせるために諏訪を犠牲にしていた。

 それを金で兵を雇い、農民を戦に駆り出さない兵農分離を推し進めたのもこの男だ。

 海を越えて大陸から船が日本にたどり着き、地球儀を見てこの世界が丸いことも、この日の本が小さい島国であることも理解した男。

 この国を早急に纏めなくては、外国と渡り合えぬと、覇道を推し進めた男。

 逆らった一向宗は女子供も根切りにしたが、反逆を起こした弟を一度は助命し、その遺児を生かした身内にどこか甘い男。

 残酷さと慈悲、激しさと冷徹さが同居し、敵には容赦がなく、明日を信じて揺らがず、魔王と呼ばれて笑う。

 どうしてあれほど織田の刀がこの男に拘り、心を乱すのか、側にいれば嫌でも感じてしまう、この男の持つ自身と他者を焼く炎のような命の輝き。

「なんじゃ、もうしまいか」

 銚子に入っていた酒の量は多くなかったようで、杯に数杯注げば空になった。

「あまりお強くないと。お疲れでしょうから、ほどほどになされませ」

 そう言って、三日月が出した皿には、水菓子である杏が皮を剥かれて乗っている。

「何故、そのようなことを知っている?」

 信長が酒に強くないことを、甘みを好むことを知っている?

 信長の問いに三日月は「さぁ、どうしてでしょうなぁ」と微笑む。

 柔らかな微笑はどこまでも優しげで、どこか懐かしむように、愛しむように信長を見ている。

 本心を隠すのが上手いと、信長が内心舌を打つ。

 青白い月明かりの下、すぐに立てるように座り、腰に太刀を佩いているというのに、典雅な雰囲気はいささかも損なわれない。

 害意はないと思うのだが、どうにも腹の底が読めない。

「寝る」

 杏を頬張ってから、そう言って立ち上がった信長に、三日月が「承知いたしました」と軽く頭を下げた。

 三日月を振り返った信長が訝しげな顔をすれば、「わたくしのような者の姿が近くにあれば、落ち着きますまい」と、部屋の外で控えているという。

「得体のしれぬ者の姿が見えぬ方がおちつかぬわ」

 見える所におれと、信長が三日月を部屋内へと促す。

 燈火の揺れる部屋は、闇を退けるほどには明るくないが、それでも御簾のない部屋の様子が急ごしらえだとわかる。

 火が小さくなっていたので、油を足そうとした三日月を信長が止める。

 いつもなら、支度の不手際と怒るところだが、夜目に慣らさないと不安だったのだ。

 この安土にいてさえ、どうにも襲撃の声と音が耳の奥に残っている。この男は信長を見殺しにしようとした。あの異形の者達が信長の命を助けることで、自分の望む未来を描こうとしたというならば、こやつにとって信長が生きているのは都合が悪いのだろう。

 だというのに、無名が信長を襲ってきた時、信長を庇って姿を見せた。

 人知れず信長が死ぬのは都合が悪いということなのだろうか。

 実際の所、この安土に戻ってくるまで、信長の安全に気を配っていたのは事実だ。

「そこに剣を置いて、近う寄れ」

 一間(約1.8メートル)の距離を開けて、刀を置けと信長に命じられ、三日月が躊躇する素振りを見せるが、腰から太刀を外して畳の上に丁寧に置く。

 その鞘の形からも古風な作りの刀だとは思った。

 今の時代に打った物ではるまいが、戦に特化した刀にも負けぬ打ち合いに耐えていた。

 名のある刀にしては扱いがぞんざいと言うか、普段使いにしているように見えた。

 だが、愛着はあるのだろう。丁寧に置く仕草に、それが見て取れた。

 信長の側にいざり寄った三日月の顔を、信長が見つめる。

 敵意はない。畏怖もない。凪いだ瞳に三日月が浮かぶのを見て、やはり物の怪なのかと身体の芯がぞわりと泡立つ。

 だが、それは嫌悪や恐怖とは違った。

 信長が三日月の右腕を掴むと、力任せに引き寄せる。

 ぐらりと傾いだ三日月の背中に回した腕に力を込め、後ろ髪を掴んで顎を上げさせるとその薄い唇から問いかけが発せられるまえに自身の唇で塞いだ。

 濡れた唇と息が自分に重ねられて、三日月は大きく目を見開く。

「宗近、今夜は伽をせい」

「信長公……」

 躊躇することもなく、信長が敷布の上に三日月を押し倒し、再び口づけてくる。

 三日月の唇を割って、信長の舌が三日月の歯列を舐め、口腔を舐める。

「儂のものになれ」

 舌でまさぐりながら、熱い吐息混じりに囁かれた。

 性交の知識はあるが、三日月には知識しかなかった。

 長く美しいと褒めそやされ、飾られ、愛された刀だが、彼に情欲を向ける者など居なかった。それに、元々三日月は顕現したときから情は深いが欲が薄い。枯れているというよりは凪いでいるのだ。

 別段、それを不自由と思ったこともない。喜怒哀楽の激しい若い刀達を見て、微笑ましいと思いこそすれ、疎ましいと思ったこともない。

 他人から欲しいと言われ、我が物にしたいと請われてきた立場であったので、信長に求められも違和感は感じない。

 ただ、情が欲につながらないので、伽を命じられてもピンと来ない。物好きなと思うだけだ。

 だからこそ、信長に口づけられても反応が遅れた。

 そもそも、平安時代では口吸いはかなり特殊なプレイの範疇になる。

 明かりも無い暗闇に閉ざされた部屋の中で、忍んできた男が手探りで女を抱く時代だ。男は女との逢瀬の時も冠を取ることを恥じ、女の袴を脱がさないまま性交に及ぶのが当たり前だった。

 男女だけでなく、見目の良い稚児を可愛がり男同士でも性交があるという知識こそあるが、三日月の感覚は平安の頃が基準なので、舌を絡ませて啜る信長の行為に面食らっていたのだ。端的に言えば、自分に口付けるなど、信長は悪食で悪趣味なのかと。

 抵抗はしないが反応も返さない三日月に、信長が訝しく思う。

 どこまでも、三日月はされるがままだ。

 南蛮鎧に比べれば、どこか儀礼用かと思える程に三日月が身につけている胸当てや前胴は頼りない。

「信長公」

 そっと手で信長を押さえる三日月に、信長が不機嫌な顔になる。

「申し訳ありませぬが、この着物を脱ぎますとわたくし一人では着られませぬ」

「何?」

「いえ、風呂を使わせていただいたあと、うまく着付けができないのを見かねたのか、端女の者が着せてくれまして」

 三日月が一人で着られないという訳ではないのだが、時間がかなりかかる上に綺麗に着られないのだ。

 三日月が小袖でもたついているのを見かねて、本来貴人の前に出られるような身分ではありませぬが、と申し訳なさそうにしながら、やはり、その衣装が崩れているのは我慢が出来なかった端女が着付けをしたのだ。

 前胴の紅い紐の飾り結びは複雑に結ばれており、三日月一人だと一度できちんと結べぶのはいまだに難しい。

「……ならば、儂が着付けてやる」

 それで問題あるまいと言わんばかりの信長に、三日月がキョトンとした顔になる。

 言い訳にしても下手過ぎると信長は思う。そして、今までまるで隙を見せなかった男の無防備な顔に笑い出したくなる。

 細い顎を掬い、再び唇を重ねる。奥へと逃げる舌に自身のそれを絡ませ、呼気を奪うように吸い上げて、信長の口中へと三日月の舌を迎え入れれば、思う存分に舐り啜った。

 息を荒げて喘ぐ三日月に休憩を与えながら、その衣を脱がせていく。

 三日月本人は脱ぐ気がないらしく、大人しく信長の手を待っている。

 装飾と布が多い三日月の衣装は脱がすのが面倒なのだが、それを口にすると「では止めましょう」と言い出しそうで、三日月の薄い唇を吸いながら、一つ一つ剥いでいった。

 狩衣の腰帯を解いて首元の蜻蛉を受緒から外し、首紙をはだけさせると、その下には黒い布が首元から肩まで覆っていた。

 防御と言うには心許ない気もしたが、首元から肩を覆う黒い伸縮性のある布は勝手が違って信長が戸惑っていたので、三日月自身が留め具を外して自ら脱いだ。

 狩衣を引き抜けば、白い小袖姿が灯火の陰影をまとって浮かび上がる。

 まろい肩を引き寄せて口づけながら、差袴の後ろ紐をほどいて緩めた横から手を差し入れれば、下帯をつけておらず滑らかな肌を掌に感じた。

 腰を撫でて尻臀(しりたぶ)を掴めば、馬や剣を使う者特有の引き締まった肉置(ししお)きだ。

 ほのかな明かりが揺れる閨で、袴を引き下ろし、小袖を剥ぎとれば、しなやかな肢体が露わになる。

 三日月はどこか戸惑うような表情で信長を見上げている。

「あの……見てのとおり、閨勤めには薹(とう)が立っておりまする。それに不調法者でして、とても信長公を満足させることは……」

 興が殺がれたと、気持ちを翻してくれないだろうかと伺うような視線に、信長が笑い出した。確かに、見た目も体つきも成人した男(おのこ)のものだ。だが、あれほど戦いになれた風であるのに、その肌には傷一つ無い。

「これほどの美貌、どうして気が殺がれようか。知らぬなら教えてやる。儂の前で乱れてみせよ、宗近」

 舌を吸われて混じり合う唾液が口の中に溢れ、着ていた物を全て脱がされて肌を撫でられる。

 それは宗近が知る閨の作法とはあまりにも違う。

 三日月の全てを暴くように信長の指が三日月の肌を這う。

 胸元を撫で回し、乳首を摘んでは紙縒(こよ)るように擦られる。

 唾液が伝う顎を舐め、首筋に舌を這わせて吸い上げられ、ツキツキと痛む片方の乳首を口に含まれると音を立てて吸われて、舌先で嬲られた。

「ひぃっ……」

 押し殺した声が零れ、信長が笑う気配が伝わってくる。

 信長の手が足を開けと三日月の太腿を割るのに、三日月が迷うように身体を強ばらせる。

「さっさと足を開け、宗近。この儂が自ら手解きをしてやろうと言っておるのだ」

 信長が三日月の両足首を掴んで腰が浮くほどに引っ張り上げ、左右に大きく割ると陰嚢を掌で転がした。

 鍛えることが出来ない、無防備な場所を他人の手に預ける緊張に、三日月の身体が知らず緊張する。

 それを信長が笑い、ゆるゆると会陰の部分を撫でさすりながら、陰嚢をやわやわと刺激する。

「大人しゅうしておれ、よいな」

 陰嚢を掴む指先にわずかに力を込めて、信長が三日月の顔を覗き込むと、三日月が視線を伏せるように瞼を閉じた。

 口の中に溜めた唾液を三日月の尻孔に垂らし、じわりと後穴に指を差し入れるが、「ッゥグッ!」と押し殺した声を漏らし、きつく目を閉じる三日月は身体の強ばりがとけず、その後穴もきつく窄まって、信長の指を拒む。

 流石に慣れぬ身体にこれでは無理かと、一端信長が三日月の上から退けば、細い肢体が安堵するように大きく息を吐いた。

「ですから、面白みはないと……」

 ゆっくりと身を起こした三日月の手を握りしめ、信長が色悪の笑みを浮かべる。

「そこの油壺を取れ、宗近」

 燈火の側に置いてある荏胡麻油の銚子ではなく、枕上に置いてある箱の中の油壺を取れと命じられる。

 どこか不安げな三日月が信長に片手に乗る大きさの油壺を渡すと、トンと信長が三日月の肩を押して再び褥の上に倒す。

「信長公?」

 眉を寄せる三日月を笑って、信長がその油壺を傾けると、三日月が嗅ぎ慣れた丁子油の匂いがした。

 掌に救った丁子油を指先に絡めて、信長の人差し指が再び三日月の後穴に沈んでいく。

「かはっっ!」

 目を見開いて息を吐いた三日月の太腿をなぞりながら、息を止めるなと信長が楽しげに見下ろす。

 三日月の反応を確かめるように、ゆるゆると信長の節くれ立った人差し指が、三日月の内壁を確かめるように抜き差しされ、左手は三日月の陰茎をしごき、陰嚢を揉み、会陰を刺激する。

 ビクンと三日月の白い足が跳ねて、信長の胴をその両足が挟み込むのに、信長が薄く笑った。

「そら、油を足してやろう」

 入り口を二本の指で開かれ、その狭間を丁子油が伝い落ちてくる感覚に、三日月が仰け反った。

 グチュリと音を立て、内へと沈む指が三本に増える。空気に溶ける丁子油の独特の香り。

 寝所に用意されていたそれに、信長の寵を得る存在だと、この城の者達に思われていたことを知る。

 実際、その公家のような出で立ちと典雅な立ち居振る舞いから、三日月を武人と思う者など稀だ。

 信長が同伴した貴人であり、側近くに置くほど気に入っている存在だと思っている。

 本来は多少の刺激があるのに、三日月の肌には馴染む丁子油がその内側を濡らして潤せば、信長の指は淫猥な音を立てて容易く肉筒を行き来し、内側から三日月をたわめていく。

 外陰部と菊門との間を擦られながら、腹側にあるふっくらとしたしこりを内側から潰すように弄られれば、三日月の腰が信長の思うようにビクビクと跳ね、堪えきれぬ嬌声が溢れた。

 今まで肉欲とは無縁であっただけに、それは強烈な刺激となり、三日月が髪を打ち振って信長に手を伸ばす。

「やめっ!信長公!」

 下肢をドロドロに溶かす熱に、三日月が戦慄く。

 今まで泰然とした態度を崩さなかった三日月の痴態に、信長が薄く笑って身を屈め、三日月の耳朶を口に含みしゃぶるように舌を這わせれば、ビクビクと肢体が震えた。

「そなたは儂の部下ではあるまい。貴人であれば貴人らしい言葉でねだってくれねば、興が醒める」

 ああ、と吐息にも似た喘ぎをこぼして、三日月が言葉を探す。

「信長殿、どうか……我を可愛がってたもれ……」

「おお、正一位 太政大臣であるこの儂が可愛がってやろうなぁ」

 朝廷より太政大臣・関白・征夷大将軍のどの職を与えようかと打診をうけていた信長は、ある意味武家出身であれば位大臣を極めたといっても良い。

 家格であればともかく、地位と役職においては摂関家の公家にも劣らぬ。

「どうした、宗近、閨での言葉など戯れ言と変わらぬ。儂を気分良く酔わせよ」

 無骨な信長の手が三日月の細い陰茎を掴み、きつく握りしめるのに、三日月の唇が戦慄いた。

 付喪神である三日月にとって、言葉は軽々しく扱えるものではない。

 隠し事は出来ても嘘は言えない。口にすれば、それは三日月にとって真実になる。

 言えと、信長が望むねだり言葉を囁かれ、再び卑猥な言葉を促される。

「『はしたない我の尻穴をそなたの摩羅で犯してたもれ……好き者ゆえ我慢がきかぬ……どうか……我の腹に種付けしておくれ』」

 言い終わった瞬間、きつく目をつぶった三日月が顔を背ける。信長はそれを羞恥からと思い「愛いことよ」と笑って、その目元から頬をベロリと嘗めた。

 実際は、三日月の身体の奥にじわりと熱が籠もったのだ。

 して欲しいと、信長に対して懇願する言葉に従い、三日月の身体が情欲に染まる。

 ねだる言葉を口にした途端、信長の指を拒んでいた三日月の肉筒が、奥へと誘うような動きに変わった。

 キュッと締まっては弛緩して、しゃぶるような蠕動をみせる三日月の内壁に、信長がクツクツと笑った。

「なんじゃ、本当に儂の摩羅が欲しくなったのか?ならば、足を開いて儂を誘え、宗近」

 奥まで突いて可愛がってやろうほどに、信長がそう囁けばしなやかな三日月の足が左右に広がる。

「『早う、奥まで突いてたもれ』」 

 ねだる言葉を口にするたびに、三日月の肌は色香を増し、熟れて潰れた果実のように内壁がグチュグチュと潤んでいく。

「見た目の割に未通女のようだと思うたが…やはり随分と可愛がられていたようだの、宗近」

「違っ……」

 優しく誠実な審神者は、三日月にそのようなことを求めたことなどない。

「今でもその美貌じゃ、幼少の頃であれば、それこそ花の顔(かんばせ)に匂い立つような美童であったろうな。寺に預けられておったのなら、さぞや色欲に溺れた坊主どもが稚児灌頂だとそなたの前に列をなしたであろう。ん?それとも貫首をたぶらかしたか?枯れた老僧とてその方の『ここ』の具合を知れば、弟子達を押しのけて猛りたつよなぁ」

 言葉で嬲りながら、信長の指が三日月の内壁をクパァと広げて笑った。

「もう……許してたもれ」

「何を許せと?」

「これ以上はいじめてくれるな、信長公」

 紅く染まった顔を隠すように上げた腕で目元を隠して、三日月が懇願すると信長が満足そうに笑った。

「ならば請え、宗近」

「『……信長殿の摩羅が欲しゅうて…たまらぬ……我慢がきかぬはしたない身体を……可愛がってたもれ……』」

 途切れ途切れの懇願には色が乗り、信長を満足させた。

「可愛がってやろうなぁ、宗近。そら喰え、そなたが欲しがった儂の摩羅じゃ」

 ニタリと捕食者の笑みを浮かべた信長が、べろりと三日月の頬を舐めると、深く細腰を折って、穿つように己の陽根を三日月の菊座に突きいれる。

 仰け反った三日月が、悲鳴のような甲高い嬌声を上げた。

 声を上げて信長が笑い、緩急をつけた九浅一深の動きで三日月を翻弄する。

 亀頭で浅い場所をかき回し、突き上げるようにしこりを擦り上げ、奥津城を壊す勢いで深く穿つ。

 信長の律動に合わせて、三日月の腰も揺れ、その両足が信長の背中を蹴る。

 恥じ入るように三日月は両手で自分の顔を隠し、悦楽を逃がすように髪を掻き乱して喘いだ。

 火入れのように、三日月の身体が熱くなる。

 熱が混じる感覚に、唇を閉じて声を殺すことも出来ず、荒い息をつきながら喘ぐ。

「商人を呼んでそなたの衣装もあつらえよう。直衣も狩衣も髪飾りも、全てな」

 髪を結っていた飾り紐を解いて、信長が三日月の唇を吸う。

 深く重なる下肢と信長の重みに三日月が甘い吐息を溢す。

「この青も似合っておるが、宗近には黄櫨染も似合いそうじゃ」

「っ!…信長公……」

 黄櫨染は天皇が重要な儀式の際に着用する束帯装束にのみ使用される色。通常は使えぬ禁色だ。思わず正気に戻った三日月が、慌てて信長の肩を押す。

「冗談じゃ。流石に儂もそなたを東宮に据えることは出来ん。だが、宮にするぐらいならばできるぞ」

「何を言って……」

「この容姿ならば、何代か前の主上が見目の良い女房に生ませたものの、金がなくて披露せなんだ子の血筋と言ったとて、信憑性もあろう」

 信長がさらりと三日月の青みを帯びた髪を指で梳いた。

「親王にするには少々骨がおれるだろうが……まぁ、出来ぬこともあるまい」

 官位を授ける際に、その経歴をでっちあげるのは公家の得意とする技で、収入源でもある。信長が命じれば、どこぞの姫の子供だと経歴を作るぐらいはする。

「そうなれば、そちが主の元に戻って傅くこともできまい」

 宮を家臣に出来る者はそうそうおらぬ、と信長が三日月の耳殻を舐めて囁いた。

「安土にそちの部屋を用意しよう、寝所には几帳台をいれてやろう。そこで、蘭奢待を焚いて抱いてやる」

 東大寺正倉院に収蔵されている香木の『黄熟香』別名を蘭奢待。それは、足利義政の他は歴代の将軍が望んでも切り取りが敵わなかった天皇所有の名香であり、信長が将軍以上の存在であると示す為に切り取りを申し入れた香木。 

 信長の権威を天下に知らしめるために要求した香木だ。

「ただの枯れ木の欠片と思っておったが、天下第一の名香と謳われる蘭奢待の香りは、宗近に似合いそうじゃ」

 閨で三日月がその香りを纏うほどに、天下に比類無い名香を焚くという。

「見目麗しい宮様を儂が稚児のように扱っていると知れば、頭の固い連中はさぞや怒るであろうなぁ」

 楽しげに、信長が三日月の喉元から胸元へと掌を這わせた。

 三日月の白い肌には信長が付けた紅い鬱血の痕と噛み傷が残っている。

「注進に来る者がおれば、見せてやろう。宗近の尻穴が儂の摩羅をずっぷりと銜え込んでいる様と、『もっと奥まで可愛がってたもれ』とよがり啼く声を聞かせてやろうなぁ」

 信長の左手の親指が三日月の唇を割って、濡れた口中へと含まされる。

 そして、信長の腰が三日月の尻臀を打ち、濡れた三日月の唇が甘い喘ぎを溢す。

「のう、宗近。宮を慰み者にする慮外者と儂がそしられるか、朝廷は儂の機嫌をとるために色狂いの宮を下げ渡したと言われるか、どちらの噂が流れるか楽しみじゃな」

 これまで宮廷の困窮はひどかった。公家も財政的に厳しい故、自分の娘や親族の娘を武家に嫁がせて援助を得ていたのだ。

 現在、朝廷の庇護者である信長を朝廷は敵に回すわけにはいかない。

 信長が台頭してきてからは、公家の方から妻や側室の打診もあった。

 実家の支援が無きに等しい濃姫を離縁し、家格の高い娘を改めて正室にと言ってきた者もいるが、それを無視してきた。

 血筋だけを誇る公家の姫に興味が持てなかったからだ。

 だからこそ、血筋で劣る尾張の大名の子であった信長を認めない輩の抵抗も根強い。

 しっとり汗と情欲に濡れた三日月の肌を撫で回しながら、喉を震わせるように低く笑う信長は、三日月の両足を抱えあげた。

「先ほどから、きゅうきゅうと締め付けてくるが、それほど儂の子種が奥に欲しいか?宗近」

「あっ……」

「宗近?」

 言えと促すように信長が三日月の陰茎を握る。そこは信長の腹に擦られ、奥を突かれて吐精し、濡れそぼっていた。

「『あい……どうか……我に種付けしてたもれ……っ!』」

「この好き者が!」

三日月が言い終わる前に信長がズンと突き上げる。これまでの遊ぶような突き上げと違い、深く深く穿ち、グリグリと奥の奥までこじ開けるように腰を打ち付けるのに、三日月は身も世もないというように髪を打ち振って、泣きじゃくるにも似た喘ぎをひっきりなしに溢した。

 身体の奥にある門がこじ開けられる感覚に、三日月が瞳を見開いて、喉の奥を開いて嬌声をあげた。

 ドクリと、身体の奥に注がれる熱によって、いつもなら冷えている芯が灼けるような感覚に、ガクガクと身体が震える。

 ぼんやりと開いた瞳に映る三日月を満足気に信長が眺め下ろしながら、自分が注いだ情欲を三日月の身体に馴染ませるようにゆるゆると腰をゆする。

「あっ……あっ……アッツ!」

 どこか惑うように視線をさまよわせていた三日月が驚愕の色を浮かべて信長を見る。

 そして、再び猛った信長の牡茎に腹のしこりを擦られ、ビクビクと情欲に濡れた身体を跳ねさせる。

「信……長っ……ぁっ!」

「さて、しっかりと躾けてやろうなぁ、宗近」

 そなたは儂のものじゃ、うっすりと笑う信長に、三日月は潤む瞳を閉じる。

 この男に側にいれば焼かれるのが、定めなのだろうか。

 三日月が腕を伸ばして信長の背中にその両腕を回すと、低く笑った信長が三日月に顔を寄せてその唇を重ねて舌を吸った。

 燈火はすでに消えて、青白い月明かりの下で、青鼠色の影を濃くしながら、衣擦れの音と淫猥な水音と甘やかな喘ぎで部屋を染める。

 一夜の夢と知りながら、生身の身体で味わう熱と快楽に、三日月は甘やかに信長の腕の中で染まった。

イニシャルD

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